夢見月夜に華ト僕<連載中>
それでも、そんな俺だって、損得勘定抜きで、純粋にヒトを好きになれていたと断言できた時代はある。
まだ数年前の話というべきか、
遥か数年も昔の話というべきか……
それは、中学時代の話。
恋をしたキッカケなんてものは、とっくに忘れた。
どんな子だったのかは、正直もう、おぼろげにしか覚えていない。
だけど俺は、恋のど真ん中に、完璧に堕ちた。
教室の入るなり、無意識についつい姿を探してしまう。
どこにいても、気になって仕方がない。
その子のどんな行動も、可愛く見えて、どうしようもなかった。
あの頃の俺は、いつだって、ユラユラと波の上で漂っているような、そんな不思議な心地よさの中に居た。
もっとも、記憶は修正を加えられ、多少美化されているところはあるかもしれないが。
そんな俺に、運よくというべきか、相手も同種の感情を抱いてくれていたらしく、
俺達は、恋人という関係を結ぶことができた。
あの時の嬉しさは、もう、この先一生味わえることはないのではないかと思えるほどに、
込み上げる気持ちは、言葉では到底言い表すことのできないものだったことを覚えている。
バカらしいと笑われるかもしれないが、
第一志望の大学に合格した時よりも、比べ物にならないほどのガッツポーズをした。
本当に、とてつもなく偉大な気持ちだったと、今になってはしみじみと実感している。