夢見月夜に華ト僕<連載中>
「カイ、少し疲れた顔してるね」
そんな俺の想いとはウラハラに、サクラは両手を俺の頬に優しく添えて、優しい声で言い放ってみせた。
……なんだ。
そんなことか。
ひんやりと冷たいサクラの手の平に醒まされて、俺は落ち着きを取り戻す。
俺のことなんて、何にも知らないクセに……
そんなわかったようなこと、言うなよ。
そして、穏やかな微笑みを浮かべながら、サクラは続けた。
「なんだか、その顔見てると、つまらなーいつまらなーい。って声が聞こえてくる気がする」
「……」
「ね。疲れてるクセに、つまんないの?」
「……」
……なんだろう?
この感覚は。
自分のこと、何ひとつ知らないような奴に、知ったような口振りで話されている。
普段の俺なら、絶対にイラついているはずだ。
何でもわかったかのように振舞う奴は、俺にとって大嫌いな人種なのだ。
それなのに、今は……
今は、違う。
自分の本音に触れられることは、こんなにも心を落ち着かせるものだったのだろうか。
こんなにも、安心できることだったのか――
サクラの言葉は、俺の中に驚くほどスッと入り込んできた。
不思議な存在だ。
目の前で微笑む、この女は。
それはきっと、儚さと危うさをはらんだ幻のような笑顔のせいなのだろうか……