夢見月夜に華ト僕<連載中>
しかし……
すぐに顔出すという予想に反し、サクラはなかなか出てこなかった。
違和感を感じ始め、もう一度公園を覗きに行こうとした、その時――
何事もなかったかのように、平然とした足取りのサクラが出てきた。
俺は慌てて、見つかりそうな体を、元の場所に引っ込める。
そして、そのままサクラは、驚く暇もなく、またすぐにその姿を俺の前から消した。
「え――」
嘘だろう……
サクラが消えた、その先。
それは、公園の向かいに建つ、古びたアパートだった。
視線をアパートに向けて、灯りのついた部屋と、微かに認識できるシルエットで、
サクラが、2階の一番隅の部屋に入っていったことを確認する。
そういうこと……
“そんなこと”だったのか。
ひとつだけ、謎で覆い隠された、サクラの輪郭が見えた。
どうして、毎回俺がこの公園に来たことに気付けたのか。
答えは簡単だ。
きっと、アパートのベランダから、この丸見えの公園を覗いていたのだろう。