夢見月夜に華ト僕<連載中>
なんとも滑稽な結末に、自然と、安堵と落胆の笑みが漏れる。
不思議のカラクリなんて、いつだって容易いものなのだ。
種を明かせば、どうってことない。
当たり前のことと知りながら、やっぱりサクラも、所詮は普通の人間だったのだと思い知った。
俺は、愚かにも、無意識のうちに新たな波乱を期待していたのか、
サクラが“普通”であったことに、安心よりも落胆を大きく感じていた。
いっそこの際、どうせならひた隠しにし続けた、名前も確かめてやろうと、
半ば理不尽な怒りにも似た感情で、俺はサクラが消えていった部屋のドアへと向かった。
戸惑う気持ちはなかった。
その証拠に、俺の刻む一歩は、心なしかいつもよりも大きかった。
しかしそこには、さらに俺を落胆させる結果が待っているとも知らずに――
古びた扉の横にある表札は、空白だった。
そりゃそうかもしれない。
今時、一人暮らしのアパートに表札をわざわざ付ける方が珍しい。
サクラの現実を知る機会をひとつ逃したことに、安堵で小さく息づく自分がいた。
矛盾だらけだ。
あれだけ迷いなく、ここまで来たクセに。
俺はしばらく、ドアの前で、茫然自失のような無の状態でいたのだと思う。
そして、コツコツと、アパートの赤茶色に寂れた階段を踏む音が耳に入って、俺は我に返った。