夢見月夜に華ト僕<連載中>
その男は、さっきまで俺が無様に立ち尽くしていた扉の前で、歩みを止めていた。
そして、サクラが居るはずの、部屋の中へと消えていったのだ。
「嘘だろ……」
気付けばまた、俺はついさっきの呟きをもう一度繰り返していた。
サクラは男と住んでいた。
兄貴かもしれない。
……なんて、バカらしい想像はしない。
真っ当に考えて、おそらくそういうことなのだろう。
バカだ。
俺は、バカだ。
こんなところまでノコノコ来てしまったせいで、
望んでいなかった情報を、無駄に手に入れるハメになってしまった。
できれば、知りたくなかったな。
……知らないでおきたかった。
俺は、自虐的な嘲笑の後、手の中にあったライターを地面に投げ捨てて、
情けない足取りで、アパートを後にした。
俺は、何にショックを受けているのだろう。
どうして、こんなにガッカリしているのだろう。
無意味な自問自答をしてみる。
重力に従うように、俺の首も、心も、しっかりとうな垂れていた。