夢見月夜に華ト僕<連載中>
まだ記憶に新しい匂いが、フワリと鼻に纏わりつく。
通り過ぎた男達が置いていった、残り香。
この匂い……
ぐるりと一周、頭の中を巡って、記憶を探る。
そうしてついに、忘れようと鍵を掛けた場所に、思考が届いてしまった。
嫌が応でも、嫌気がさすくらいの、鮮明な記憶が蘇る。
……アイツだ。
あの晩の、ライターの男。
そうだ。
サクラの……
サクラと――
暗闇の中で、かろうじて目にした顔が、俺のすぐ傍に今また、しっかりとあった。
クソッ。
一度も二度も、目を逸らして、やっと封印した出来事だったのに。
早く消えてくれと、願いにも似た悪態を、心の中でついてみるが、
そんな想いが届くはずもなく、レジのすぐ近くに設置された、弁当置き場に居座る二人組。
常識から、大きくサイズオーバーした話し声は、
わざわざ聞き耳を立てなくても、俺の鼓膜を通過してくれる。