夢見月夜に華ト僕<連載中>



「追い出しちまおっかな。どうせ最初から関係なかったヤツなんだし?」


しばしの間、考える素振りをみせたと思ったら、ヤツは軽く弾んだ声で、いとも容易く言い放ってのけた。



「あぁ。それがいいと思うわ」


友達も、ヤツの言葉に、納得したような相槌を打つ。



……なんだよ。

その身勝手な言い分は。


濁流となってうごめく憤りは、行き場を失って、今にも爆発しそうだった。



震える拳は、ヤツに向かっていこうと息巻いているのに、

俺のどこかが、そんな俺をどうしても抑えつけて離さない。



今は駄目だ。

俺は店員で、コイツは客なんだから。


なんだかなんだと必死に理由を付けて、自分を正当化しようとする心は、滑稽そのものだ。



その時、携帯の着信音が、沈黙の空気の中で流れるよどみを、割り入るように鳴り響く。



「あ、ヤベ。俺待ち合わせあったんだわ。じゃあな」


女との約束でも思い出したのか。


携帯を取り出した男は、ディスプレイを見るなり、相手の返事も聞かず、

慌てて動き出し、そそくさとコンビニを後にしていった。



サクラの話など、すっかりどこかに飛び去ってしまったかのように。


睨み付ける俺に目もくれず、何事もなかったかのように、再び俺の前を通り過ぎていく。


今の俺にとっては、むせ返るような悪臭を残して。


< 62 / 114 >

この作品をシェア

pagetop