夢見月夜に華ト僕<連載中>
「追い出しちまおっかな。どうせ最初から関係なかったヤツなんだし?」
しばしの間、考える素振りをみせたと思ったら、ヤツは軽く弾んだ声で、いとも容易く言い放ってのけた。
「あぁ。それがいいと思うわ」
友達も、ヤツの言葉に、納得したような相槌を打つ。
……なんだよ。
その身勝手な言い分は。
濁流となってうごめく憤りは、行き場を失って、今にも爆発しそうだった。
震える拳は、ヤツに向かっていこうと息巻いているのに、
俺のどこかが、そんな俺をどうしても抑えつけて離さない。
今は駄目だ。
俺は店員で、コイツは客なんだから。
なんだかなんだと必死に理由を付けて、自分を正当化しようとする心は、滑稽そのものだ。
その時、携帯の着信音が、沈黙の空気の中で流れるよどみを、割り入るように鳴り響く。
「あ、ヤベ。俺待ち合わせあったんだわ。じゃあな」
女との約束でも思い出したのか。
携帯を取り出した男は、ディスプレイを見るなり、相手の返事も聞かず、
慌てて動き出し、そそくさとコンビニを後にしていった。
サクラの話など、すっかりどこかに飛び去ってしまったかのように。
睨み付ける俺に目もくれず、何事もなかったかのように、再び俺の前を通り過ぎていく。
今の俺にとっては、むせ返るような悪臭を残して。