夢見月夜に華ト僕<連載中>
その男の後ろ姿に、取り残された友達は、諦めたような小さなため息を漏らすと、
再び、明るくライトアップされた棚に向き直って、弁当を選び始めていた。
店内は、数分前と同じ静けさを取り戻す。
諦めのような男のため息の表情を見て、あの男の後先を考えないような突飛な行動は、
きっと、日常茶飯事の行動なのだろうと思った。
だからこそ、きっとアイツは、気まぐれでサクラを受け入れたように、
サクラを切り捨てる時もまた、何の迷いもなくやってしまうのだろう。
“追い出しちまおうかな”
あの、言葉通りに。
俺は、不安に包まれながら、今、無性にサクラに会いたいと思った。
今すぐ、サクラの元に走っていきたいという衝動に駆られていた。
けれど一方で、俺は嬉しかった。
謎だらけで掴むことのできなかったサクラが、だんだんと現実味を帯び出していることが。
またひとつ“サクラ”という存在に近付けたような気がして。
そのことに、ついこの前までは落胆を感じたいたはずなのに。
そして……
それと、もうひとつ。
俺を喜悦させたのは、サクラとヤツの間には
“心の繋がり”とかいう洒落たものは、どこにも見当たらないということだった。
その事実は、あの日から、どこか荒れていた俺の一部を、落ち着かせてくれた。