夢見月夜に華ト僕<連載中>
その答えは、サクラがすぐに与えてくれた。
「だってカイ、彼女いるでしょ?」
「え……どうしてそれを」
「だって私、カイがこの公園、女の人と手繋いで通ったの、見たことあるもん」
驚いた表情のまま固まっている俺に、半分呆れ顔を交じらせた微笑みで、サクラは言った。
「いくら私だってわかってるよ。彼女のいる人が、私と住むのがマズイってことくらいね」
「……」
まさか、サクラの口から、こんなにも正しい言葉で飛び出すとは――
俺は、サクラという人物に、始めて“常識”という単語が結びついた瞬間を、見たような気がした。
いや、むしろ常識から逸脱しているのは、俺の方だと知る。
自分でも最低だと思うが、つい昼間に会話を交わしたばかりだというのに、
“マズイ存在”である結衣のことなど、サクラに指摘されるまで、これっぽちも頭になかったからだ。
しかも、どうやらそれは重症らしく、そこに気付いたにも関わらず、
それでもまだ、なおも俺は、今だに、罪悪感というものを感じられずにいた。
どうしても、サクラに放った言葉を、巻き戻す気は起こらない。
一度浮かび上がってきた結衣の笑顔は、またすぐに、深い意識の底に沈んで、消えていった。
その変わりに俺は、今度はサクラに問いかける。
「サクラはさ、アイツのこと好きなの?」
「……え?何のこと?」
「アイツのことだよ」
「アイツって……誰のこと?」