夢見月夜に華ト僕<連載中>



その答えは、サクラがすぐに与えてくれた。



「だってカイ、彼女いるでしょ?」

「え……どうしてそれを」

「だって私、カイがこの公園、女の人と手繋いで通ったの、見たことあるもん」


驚いた表情のまま固まっている俺に、半分呆れ顔を交じらせた微笑みで、サクラは言った。



「いくら私だってわかってるよ。彼女のいる人が、私と住むのがマズイってことくらいね」

「……」


まさか、サクラの口から、こんなにも正しい言葉で飛び出すとは――


俺は、サクラという人物に、始めて“常識”という単語が結びついた瞬間を、見たような気がした。



いや、むしろ常識から逸脱しているのは、俺の方だと知る。


自分でも最低だと思うが、つい昼間に会話を交わしたばかりだというのに、

“マズイ存在”である結衣のことなど、サクラに指摘されるまで、これっぽちも頭になかったからだ。



しかも、どうやらそれは重症らしく、そこに気付いたにも関わらず、

それでもまだ、なおも俺は、今だに、罪悪感というものを感じられずにいた。



どうしても、サクラに放った言葉を、巻き戻す気は起こらない。


一度浮かび上がってきた結衣の笑顔は、またすぐに、深い意識の底に沈んで、消えていった。



その変わりに俺は、今度はサクラに問いかける。



「サクラはさ、アイツのこと好きなの?」

「……え?何のこと?」

「アイツのことだよ」

「アイツって……誰のこと?」
< 70 / 114 >

この作品をシェア

pagetop