夢見月夜に華ト僕<連載中>
一歩
そうと決まった後の、サクラの行動は速かった。
「ちょっと待ってて」と告げると、即座に公園を出ていくサクラ。
そうかと思えば、口を開けたままで呆然としているうちに、満面の笑顔をして、小走りで帰ってきた。
その片手には、俺の通学用よりも小さなカバン。
サクラの歴史は、たったそれだけなのかと驚いた。
それから、もうひとつ。
数センチほどに膨らんだ、薄っぺらい茶封筒。
その茶封筒を指差しながら、俺は、恐る恐るたずねる。
「サクラ……もしかして、それって……」
「えへへ。アイツのお金、持ってきちゃった」
何の悪びれもなく、ちょっとしたイタズラをし終えた時のように、
可愛く舌を出すサクラを見ていると、まるでそれほど重いことではないように思えてくる。
が、間違いなく、これは……
「マズイよ、サクラ。それって犯罪じゃ……」
万引きひとつ経験のない俺が、今目の前で“犯罪”が起きる瞬間を目撃しようとしている。
“犯罪”だなんて、何を大げさなことを言っているんだと、笑われるかもしれないけれど。
それでも、俺の胸の動悸は、速まる。
一方で、初めて目の当たりにする状況に、どこか胸を高鳴らせる自分もいた。
そんな俺に対して、サクラの方は、悪いことだという認識すら、ないように見えたけれど……
「大丈夫っ!アイツに二度と会わなきゃバレないよ」
……一応は、駄目なことだという認識はあったみたいだった。