夢見月夜に華ト僕<連載中>
「早く行こっ!」
「あ、あぁ……」
サクラは塞がっている両手で手招きして、俺を急かす。
……ま、いいか。
アイツのことだ。
コンビニでの会話を聞いていた限り、アイツなら、訴えられたりとかいう、
そんな面倒なことには、ならないような気がした。
――うん。
大丈夫。
結局、わずか数秒の間で、サクラの言葉と、俺の中にあるアイツの記憶を繋ぎ合わせて、
問題なし、という結論に至った。
俺は、どうかしていたのかもしれない。
普通の俺なら、そんな厄介なことに巻き込まれるなんて、絶対に避けるはずなのに。
本当に不思議だ。
サクラと居ると、それだけで、なんだってできてしまいそうな気になる。
どんなことでも許されると、錯覚を起こしてしまう。
サクラとなら――
これから、目まぐるしいように変化していくであろう、俺の生活に期待を抱いて、
サクラと俺とバイクの三人で並んで、外灯の少ない月明かりの道を帰る。
二人ならば、きっと明るい道を、俺達はゆっくりと歩いた。
サクラは、一度も聴き覚えのない鼻歌を口ずさむ。
俺は、隣でそれを聴いて、自然に頬を緩ませる。
スッっと体をすり抜けていく夜風は、いくら夏でも冷たいはずなのに、暖かくて心地よかった。
――愛しい。
俺は、生まれて初めて、この言葉がピタリと当てはまる感覚を見つけた。
……そんな気がした。