夢見月夜に華ト僕<連載中>
気付けば、あっという間に俺達は、古びたアパートの扉の前に立っていた。
ジーンズのポケットから、無造作に詰め込まれた冷たい感触を探り当てて、手慣れた動作で、扉を開ける。
薄暗い扉の中を目にした瞬間、俺は、夢見心地だった世界から、一気に現実に引き戻された。
考えなしに、サクラを連れてきてしまったが、俺は、完全気ままな一人暮らし。
狭い部屋に、二人分が生活できるような空間もなければ、
まして、女が住めるような用意など、あるはずもない。
布団だって、俺一人の分しかないのに、これじゃあ、寝るスペースだってない。
珍しく、衝動だけで動いたがために、俺は、たくさんの大事なことをすっかり忘れていた。
これは、夢物語じゃない。
突きつけられる、細かい現実。
現実は、理想通りには進まないということに、体中の熱がサッと冷めていくのを感じた。
一体俺は、何をやっているんだ……
と、早速後悔をしているわけではないが、呆れた感覚で自分を眺めてしまう。
けれど、俺のそんな心情よりも、サクラがここへ来たことを後悔することだけは嫌だった。
“あの男の方がよかった”
たとえ、ほんのわずかであろうとも、そう思われるのだけは、耐えがたいと思った。