夢見月夜に華ト僕<連載中>
チラリと横目で見やったサクラは、やっぱりいつもの笑顔だった。
俺は、胸を撫で下ろす。
「ゴメン。悪いけど、今日は俺の布団使って」
とりあえず、サクラを冷たい床に寝かすわけにはいかない。
出しっぱなしになって、ぐちゃぐちゃの塊みたいな布団に目をやり、俺はサクラを促した。
本当は、同じ布団で並んで寝れば、済むだけなのかもしれない。
あの男とだって、きっとそうしていたんだろうと思う。
だけど俺は、どうしても言い出せなかった。
何を今さら純情ぶっているのかと、自分でも笑ってしまいそうになるけれど、
サクラへと触れることに、俺は怯えを感じていたのだ。
あの布団の上で、俺は数時間前に、他の女の温もりを抱いたばかりだった。
その温もりの上に、サクラがまた、新たな温もりを重ねる……
その事実に、なんとも言えない気持ちが生まれてくる。
わけのわからない余韻に、一人浸りながら、俺は床に散乱した、たくさんのガラクタを
急いで、乱暴に隅に追いやって、サクラが歩くスペースをつくった。
そして、その間に、サクラは遠慮も緊張も何もなしで、
気付けば、迷うことなく、布団へと直行していた。
そんなサクラに、失礼だとか、常識がないだとか、面倒な嫌悪は、何ひとつも感じない。
むしろ、なんとも気持ちいいくらいの、快感を与えてくれる。
これはちょうど、小さいガキが流行りのヒーローアニメの真似をして、得意気になっているのを
“バカだなぁ”なんて、呆れながら眺めているが、それは決して苦笑ではなく、微笑ましく見守る感覚。
俺のサクラを見る目線は、それとよく似ているかもしれない。