夢見月夜に華ト僕<連載中>
エゴ
「私もカイの大学に行ってみたいなぁ……」
始まりは、サクラの何気ない一言だった。
サクラと二人きりの部屋にもだいぶ慣れてきたある日。
朝の身支度を済ませた俺が、いつものように、
サクラを部屋に置いて、大学に向かおうとしていた時だった。
サクラは、思い出したように、ぼんやりと呟いた。
今、俺達が同じ時間を過ごせているのは、ほとんどが、月の出ている時間だけだった。
昼間は今までと同じように、俺には大学生活がある。
その間、サクラが何をしているのかは、知らないが。
多分、俺の部屋で一日中、気ままに過ごしているのだろうと勝手に思っているけれど……
もしかしたら、あの時の俺みたいな存在がいるのではないか――
なんて、胸の中をモヤリとした予感が、過ぎるときもある。
それでも、俺が一日の疲れが詰まった体を背負って帰ってくると、
決まって迎えてくれる、満面の笑顔。
それだけで、俺の気だるい全ての感情は、瞬く間に、泡のように消えていく。
ビールで癒していた安らぎの習慣は、
サクラと暮らすようになってからは、すっかり消えていたことに、最近になって気付いた。