夢見月夜に華ト僕<連載中>
「バイトとかもやってみたいなぁ」
「サクラ……」
更なるサクラの一言で、俺は気付かされる。
サクラは“普通”の暮らしがしてみたいのだと……
一人で勝手に浮かれている、俺の心の内側。
調子に乗っていた自分が、なんだか恥ずかしくなった。
だって、サクラの言葉は、軽く聞こえるのに、なぜか重く俺の心にのしかかってくるから。
だから俺は、今サクラがそれを望むならば……
俺に求めてくれるならば、どんなことでも叶えてやりたいと思った。
「任せとけ」
――“サクラのため”
その言葉を胸に掲げる。
そして俺は、その一心で、少し前の自分なら、絶対に考えられないような行動に出た。
すぐさま俺は、コンビニバイトを辞め、大学のすぐ傍にある、レンタルビデオ屋へと移った。
“サクラ”という存在を、本物にするために――
目的は、新規契約の客。
会員カードを作る際に必要な、身分証明書が目的だった。
大学の近くにあるこの店なら、学生証を出すヤツだって、必ずいる。
俺は、それを利用することを考えた。
悪さなんて、記憶もおぼろげなガキの頃くらいにしかしたことがないはずなのに……
すぐにこんなことを思い付けてしまった自分に、少し嫌な気分にさせられる。