夢見月夜に華ト僕<連載中>



手に入れたふたつの“存在”を、浮かれた気分で、その日の手土産に持ち帰ると、

それに反してサクラは「別にいいのに」と、苦笑を浮かべながら言った。


「ただの思い付きで言っただけだったのに」と、少し困った顔をしたサクラから、

感謝の言葉も、喜びの声も聞くことはできなかった。



それから、そんなサクラに、あからさまに落ち込んだ素振りを見せてしまった俺へサクラは、

「もっと可愛い名前にしてほしかった」と、いつものおどけた笑顔で、重苦しくなりかけた雰囲気を、元に戻した。



サクラを世間に紛れ込ませたいと思ったのは、サクラ本人ではなく、俺の方だったのかもしれない。


もっともっと、俺の傍に来てほしかった。

俺の世界に近付いて欲しかった。



それでも、俺は信じていた。


サクラのためだから。

サクラが、喜ぶから……と。



暗闇の中から、半ば無理矢理、君を引っ張り出して、

光の中に置いても、いつも君の影ばかりを追いかけているような……


そんな卑屈な感覚に、俺は満足していなかったのだ。



早く、早く……

本物の君に触れたかった。



“サクラのため”


そう言い聞かせたって、結局全ては、俺の願い。



ただのエゴに過ぎなかったのかもしれない――

< 87 / 114 >

この作品をシェア

pagetop