夢見月夜に華ト僕<連載中>
「な……に言ってるんだよ」
いくらなんでも、動揺しすぎだろう。
もういい年なんだから、感情を隠すことくらい覚えろよ。
ケンジ。
俺は、バカ正直なのは、決していいところじゃないと思うぞ。
まぁ、そこまで結衣のことを想うんだったら、喜んでお前に――
「アイツ、お前にやるよ」
――くれてやるよ。
俺は、我慢し続けていた嘲笑を、抑えきれずに、
緩やかに口角を持ち上げながら、ケンジに言葉を吐き捨てた。
その瞬間、鈍い音と共に、ツンと突き上げるような、確かな痛みが、俺の頬を襲った。
「イッてぇ……」
しかし、最初に悲痛な唸り声を上げたのは、痛みを受けた俺ではなく、与えたケンジの方だった。
いきなりの行動に、思わず地面に倒れこんでしまった俺が、上方を見上げると、
繰り出した拳を抑え、顔を歪めているケンジがいた。
あぁ、そういえば、殴られたヤツと同じだけ、殴ったヤツも痛みを感じるんだったっけ。
窮屈で退屈以外の何者でもなかった、高校時代の何かの授業で習ったっけ。
ましてや、穏やかなケンジの性格と人生に、こんな場面は滅多にお目にかかれるものじゃないだろう。
慣れていない拳には、ダイレクトな痛みが走ったはずだ。
そんな性もないことを考えられている自分は、やっぱり酷く冷静だった。