夢見月夜に華ト僕<連載中>
「海斗、ゴメン……」
痛みのおかげで頭が冷えたのか、倒れこんだままの俺に気付いたケンジは、手を差し伸べてくる。
いつもの、優しいケンジだ。
そして俺は、黙ってケンジの手を受け入れた。
「お前はさ、結衣じゃなくて、その女のことが好きなんだな」
「え……?」
ケンジの頭の中で、どこをどうやってそんな結論に至ったのかは、いまいち図りかねるが、
さっきと一転した、穏やかな物腰と、俺を労わるような口調で、ケンジは俺に語りかける。
……好き?
俺が、サクラを?
この俺の感情が、そうだっていうのか……?
――違う。
この気持ちは……
俺の中で膨らむ、この想いは、そんなものじゃない――
テレビで、本の中で、街中で。
バーゲンセールのように安売りされている、言葉。
“好き”という言葉が、今の俺には、どうも酷く安っぽい言葉に思えてならなかった。
俺の心は、そんなに軽いもので済まされるものじゃない。
もっともっと、重くて、神聖なものだって……
そう、信じていた。
それはきっと、永遠――
俺は、それっきり、ケンジの言葉に答えることはなかった。
言葉にできない想いを、無理にケンジに伝える必要はない。