夢見月夜に華ト僕<連載中>
――その夜。
珍しく来訪者の訪れを知らせるインターホンが、狭い部屋中に鳴り響いた。
どうせ変な勧誘だろうと無視を決め込むつもりだった俺だが……
「海斗」
ドアの向こうから伝わる、聞き覚えのある声に、俺は一時たじろいだ。
「いるんでしょ?」
どうしたものかと、サクラを見やると、何もかもを悟ったような視線で合図を送って、俺を促す。
仕方なく、サクラに背中を押されるようにして、俺は気だるい身体と表情を引っ張って、扉を開いた。
「結衣……」
「海斗。あのね、あたし、話が――」
戸惑いと恥じらいを帯びた仕草で、言いかけた言葉を、結衣は突然取り止めた。
結衣の見開かれた目は、俺を通り越したその先を映していたから。
俺も結衣の視線に合わせて振り返ると、サクラも結衣を見つめていた。
見たことのない、真摯な瞳で。
「そういう、こと……か」
「結衣?」
「なんか、邪魔しちゃってごめんね!」
「結衣、あの――」
「じゃあね、海斗。これからもよろしく」
結衣は早口で、そう告げるや否や、素早い動作で、小さな背を俺に向けて
カタカタとヒールの音を響かせながら、走り去っていった。
瞬時に、罪悪感が胸を過ぎる。
俺は、今さっき、ほんの少しだけ言い訳をしようとしていた気がする。