夢見月夜に華ト僕<連載中>
最後に、笑って見せた、結衣の精一杯強がった、大きな瞳は、
今にも溢れ出しそうな、水溜まりをつくっていた。
声と共に、薄い唇も微かに震えていたような気がする。
きっと今頃、泣いているのだろう。
良心が、チクリとした痛みを帯びる。
だけど、追いかけたりなんかしない。
慰めることも、言い訳も必要ない。
だって――
「追いかけなくていいの?」
俺の振り返った先には、サクラがいるから――
「知ってるクセに」
再びサクラを目にした瞬間、俺はそんな小さな痛みなど、微塵も感じていなかった。
ちょうどいい。
説明する手間が省けた。
すんなりと状況を呑み込んでくれて、助かった。
そんな感情が、どこかで僅かに残っただけだった。
悪趣味な冗談で、俺達は笑い合う。
結衣の涙を、二人の気持ちを確認し合うためのスパイスにして、俺達は深いキスを交わす。
深い夜に堕ちていく。
闇に包まれる。
だけど、恐くない。
もう、離さない――