小悪魔は愛を食べる
少女が胸板に手を手を伸ばして顔を近づけてくる。キスを強請られているのだと察すが、ふいと顔を逸らして避けた。
キスはしたくない。
表情でそう伝えると、少女は思ったよりも簡単に引いた。
頭がいいなと少しだけ感心して、それでも付き合ってもない男に安易に身を委ねようなんて奴はやっぱり馬鹿だとも思った。
ポケットから取り出した避妊具のパッケージを歯で噛み切って、中から薄い皮膜に似たゴムを取り出す。ぬらぬら濡れて光っているのが気持ち悪くて、目を逸らす。
けれどその一瞬の隙を突いて、少女は壱弥の唇に自分のそれを重ねた。壱弥の形のいい眉が不愉快に顰められ、少女の肩を押して上体を離した。
少女はぺろっと唇を舐め、「ごちそうさま」と笑った。それはさっきまでの少女の顔ではなく、一人の女の顔だった。
壱弥は一度強く唇を噛み締め、腹立ち紛れに食いつくかのように乱暴に少女の唇を奪ってやった。主導権を奪われるわけにはいかない。と、妙な男のプライドがあったのかもしなかった。
少女から「んんぅ」とくぐもった声が漏れる。
絡んだ舌が気持ち悪くて軽く噛むと、少女の舌はすぐに口の中から逃げていった。
「なんで噛むかなぁ」
「気持ち悪いだろ」
「はぁ?失礼しちゃうわー」
「お前には負けるから」
本気で壱弥が言うと、少女は僅かに身じろいで腿までずり下がった下着を穿き直した。
壱弥が半眼で少女を見る。
少女は緩く息を吐き出して、それから壱弥の頬をぐに。と引っ張って笑った。
「やっぱいいや。もうやめよう」