小悪魔は愛を食べる

見遣れば壱弥が階段を上ってくるのが視界に入った。芽衣の手が真鍋の手から離れ、たんたんと軽快な足音で壱弥に歩み寄っていく。

「あのね、真鍋くんがね、なんかいきなりキレて階段殴ってね、たいへんだったの」

「なんだそれ。ああ、そうだ。はい、弁当箱。忘れてっただろ、お前」

「中身食べたー?」

「食ってない」

「食べてもよかったのに」

「時間、なかったからな」

「あ、そっかぁ」

はにかんだ芽衣を見上げる壱弥は満足そうに幸せそうに微笑んでいて、ああ、たしかに壱弥は可哀想なんかじゃないんだと思い知らされた。


壱弥は可哀想じゃない。

幸せ者だ。

好きな女の為に生きて死ぬ事を許された、幸せ者。



『わたしのために生きて、わたしのために死ねばいい』


羨ましさに、真鍋は眉を下げて笑うのが精一杯だった。

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