小悪魔は愛を食べる

5.さみだれ


* * *





昼休みの終わる頃、里中初音がそれを知ったのは本当に偶然だった。

人通りのある階段の端で、真鍋宗佑と華原芽衣が異様な空気を纏って話していたのだ。

珍しい組み合わせだと思い、何気なく横を通り過ぎようとした時、本当に偶然に耳に流れ込んできた。

「イチは、わたしのために生きて、わたしのために死ねばいい」

瞬間、全身の血が沸騰したような感覚に頭が真っ白になった。瀬川壱弥が、華原芽衣のために生きて、死ぬのだと。考えただけで目の前が真っ赤に染まる程の憎悪がふつふつと沸いてくるようだ。

白と赤のコントラストに眩暈がし、抱えていた生徒会の書類を強く握った。

薄っぺらいのに硬質な紙の端が指先で滑って、皮膚に一本の短い筋が出来る。

ぷくりと赤い液体が滲んで、指を切ったのだと気付いた時には既に階段を上りきっていた。

無意識のうちに歩いてきたんだと思うと少し驚きだった。

「初音」

呼ばれて顔を上げる。立っていたのはA組の佐渡小夏だった。佐渡とは一年のときにクラスが一緒で、出席番号が前後だった。

仲はそこそこ。話はするが、プライベートで遊ぶほど仲良くは無という関係。

そんな彼女が急にどうしたのかと初音が訝しむと、佐渡は一枚の紙を手渡してきた。

コンビニのレシートだった。が、よく見ると裏の白い部分に何か書かれている。

『五時に音楽室』

あまり綺麗な字ではないなと思いながら初音が視線を戻すと、佐渡が嫌味に笑っていた。

「そこにさぁ、華原呼び出してくんない?」

「どうして?」

「いいから呼べよ。初音だって本当はむかついてんでしょ?あいつ、倉澤にまで手出しやがったし」

それじゃ、よろしく。と初音が何か言い返す前に佐渡が踵を返した。突き返すタイミングを失った紙が手の中でぐしゃりと音を立てた。

この学校の異常なくらい防音設備の整った音楽室に、華原芽衣を呼び出してなにをするつもりなのか明白過ぎて笑えた。笑えたけれど。

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