小悪魔は愛を食べる
『イチは、わたしのために生きて、わたしのために死ねばいい』
耳に張り付いたみたいに、声が、消えてくれなかった。
傲慢な女。人が欲するものを全て持ってて、それを振り翳して生きている傲慢な女だと思った。
瀬川壱弥を所有物のように扱い、絢人にまで手を出そうとしてきた、嫌な女。
嫌いだ。憎い。
顔の皮一枚、可愛いというのが何だ。ただそれだけではないか。
なのにどうして、華原芽衣はこうも全て簡単に手に入れていくんだろう。
どうして瀬川壱弥は、あんな女が大切なんだろう。こんなに好きなのに。こんなに、こんなに好きなのに。
好きなだけじゃ、届かない。手に入らない。
あの女がいるかぎり、絶対に。
「……」
唇が、口の中がひどく渇いていた。空気を吸うと、カラカラに渇いた土みたいな味がする。
手の中の紙が鼓動を打つように存在感を訴えていて、初音はポケットにそれを押し込んだ。
返すタイミングも、捨てるタイミングも失った紙切れは、初音のポケットの中。どくどくと蠢いて、忘れる事すら許しはしなかった。
窓の外。雨はまだ、止まない。