小悪魔は愛を食べる
「あ、や、べつに用事はないんだけどさ、壱弥に休むってメールしたら姫華もだって聞いたから、どうせ病院行ったついでだし寄ってみたんだ。迷惑だったかな?」

「いんや。そんな事はないよ。熱あるの?」

「んー熱は微熱くらいだから平気なんだけど、喉がちょっとイガイガして喋りにくい、かな」

「ああ、言われてみればちょっと掠れてるかもね」

納得すると、姫華は腕を上げて大きく伸びをした。んー。と漏れ出た声が無防備で、七恵がくすりと忍び笑う。

「なに笑ってんの?」

「んーん。べっつにー」

「あ、そ。それよりさ、昨日の話なんだけど」

「うん?」

七恵が姫華を見つめる。姫華は少し悩んで、口を開いた。が、何も言わないまま閉じた。

「昨日のって、芽衣が倉澤くんとキスしたっていうやつ?」

言い難そうな姫華の代わりに七恵が切り出した。姫華の視線が床を彷徨って、指先が綺麗にアートされた爪先を弾く。
それから少々の間を空けて、姫華が後ろに転がった。
ベッドの上をもそもそと移動して、枕を腹に抱き込む姫華の姿に、七恵は珍しいものを見る気持ちで目を瞬かせた。
ちろりと姫華が七恵を見る。

「キスー…キスかー………キス」

「や、うん。したっていうか、されたって芽衣は言ってたんだけどね」

「昨日も聞いたよ。そうじゃなくてさ…なんつーか、キスする、倉澤って…こう、イマイチ想像できないんだよね」

言われてみれば。七恵は顎に手を当てて頷いた。

「けど、芽衣が嘘吐くわけねーし。あーもうー…考えんのタルい」

まとまらない考えを投げ出すように、枕を足の方へ放った姫華の手が携帯電話に触って、ゴトッと硬質な音で床にぶつかった。

「やべっ」

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