小悪魔は愛を食べる
「顔は、傷つけたら駄目なんだってよ」
「……っは、ぁ…」
呼吸をしようと必死に吸うが、入ってこない。脳が考える事を拒否したみたいに、何も考えられなかった。
ぼやけた視界に、足が映る。
男の足ではなく、スカートから伸びるハイソックスを履いた足だった。
一人、二人。女二人に、男が一人。
数を確認する芽衣の耳に、聞いたことのある声が聞こえた。
「華原さん、涎垂らしてきったなーい」
声がやけにクリアに聞こえる。けれど頭がついてこない。
なにを言っているんだろう、この人は。
起き上がれないまま這い蹲っていると、芽衣の小さい手がまた踏み躙られた。
「大丈夫ー?意識アリマスカー?」
眼前で手がひらひら振られていた。けれど芽衣は口を噤んで、目を逸らす。
こんな暴力に屈したら、今までの自分が全て無意味なものになってしまう気がしたからだ。
殴られるより、蹴られるより、強姦されるより、心が折れてしまうのが怖かった。
二度と立ち上がれなくなってしまうのが、怖かった。
「さわんないでよ、不細工」
吐き捨てられた芽衣の言葉に、眼前を舞っていた手が髪を掴む。何本か、抜けた。痛みは薄い。まだ体が麻痺しているのだ。
それでも、徐々に踏みつけられている手に痛覚が戻って、歪んだ視界も焦点が合うようになってきている。このまま大人しくして、隙を見て逃げる。それ以外にこの暴力から逃れる手はなかった。
しかし、頭上で男が哂った。おかしくて仕方ないという風に、哂って言ったのだ。