小悪魔は愛を食べる
「あれ、どこ行くの?」

芽衣がワンピースを脱ぎながら訊く。
壱弥は目元を緩めて「なんか飲み物持ってくる」と言って出て行き、そのすぐ後を追うように姫華が立ち上がり、「手伝ってくる」と手を振って出て行ってしまった。
そうして壱弥の部屋の中には七恵と芽衣だけになった。
ワンピースを脱ぎ終わってパジャマを着始めた芽衣をちらりと窺って、七恵が言った。

「壱弥怒ったかな?」

七恵の問いに、芽衣は不思議そうな表情で首を捻る。

「イチはあれくらいじゃ怒らないよー?いつも優しいでしょ」

「そ、そっかな?」

「そうだよ。大丈夫だいじょうぶ!イチが怒るのは、わたしに何かあった時だけだから」

簡単に飛び出した芽衣の言葉に、七恵の心臓が脈打った。
壱弥が怒るのは、芽衣に何かあった時だけ。本当に、心の底から、その通りだと思った。脈打った心臓が、ずくずくと痛い。

事実、七恵の知っている壱弥は、芽衣以外の存在に揺さぶられない。それが感情でも、体でも、壱弥を好きにできるのは芽衣だけの特権なのだ。

七恵には与えられない、芽衣だけの特権。

羨ましくないと言えば嘘になる。だがしかし、七恵が芽衣ほど壱弥に依存できるかと問われれば、答えはきっとノーだ。

芽衣は依存という離れられない代償を払う事で、壱弥を繋いでいる。何もできない代わりに、壱弥を手に入れているのだ。
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