小悪魔は愛を食べる
「お前選択化学とってんのかよ?馬鹿は生物がセオリーだろうが」
「だって生物って解剖あんじゃん。きもい」
「あぁ。たしかに女子には厳しいかもな。フナ?カエル?」
「フナ」
「カエルよりはマシじゃね?」
「やだよどっちも一緒だよ!ばかぁ!!」
想像してしまったのか、芽衣が自分の体を抱き締めて青褪めた。真鍋が愉快気に笑った。
「おいおい。一緒じゃねーだろ。内臓違うっつの、フナとカエルじゃ」
「やだやだ!考えるのも気持ち悪い!!こ、この話はもうお終い!さっ勉強しよ、勉強!」
「お、言ったな。なら何から始めっかな。壱弥、こいつ何が一番やべぇの?」
「英語」
「英語ねぇ…単語からやるか?どうせ文法とか以前の問題なんだろ」
「おお。よくわかるね、真鍋っち。憶えるの苦手なんだよね、わたし」
「真鍋っちってきもいからヤメロ。はい、じゃ教科書開いて」
「いえっさー」
そそくさと芽衣が机から英語の教科書を引っ張り出して目次を開く。テスト範囲すら把握してないのかと真鍋が呆れ、その項垂れた肩を壱弥が叩いた。
「ドンマイ」
「はぁ。マジありえねぇ。いいか、範囲はこの辺からこの辺まで。予想では単語一割、文法三割、長文五割で他一割。プリントは?」
「あ、ありますですとも!」
「…おい、お前実は現国もやべぇんじゃねーの?」
頬杖をついてまた溜め息を吐いた真鍋に、芽衣の頬が空気を蓄えた。
「あ、拗ねた」
「は?拗ねてる場合じゃねーだろ。テストまで後四日もねーんだぜ?ほら華原、こっち向けって」
「やっ」
一体何が気に障ったのかと真鍋の眉が寄る。
人がわざわざ教えてやるって言ってるのにどうしてこいつはこんな態度なんだ。と妙な苛立ちさえ覚え、ぐいと柔らかい頬を摘んで引っ張った。