小悪魔は愛を食べる
「死なないけど、やなの。倉澤くんだって、友達に口きいてもらえなくなったら悲しいでしょ?」
「悲しくないし、友達いないから」
「なにそれ。寂しんぼ発言?倉澤くんが言っても可愛くないよ」
「違うよ。友達って、いたら面倒だろ」
「……そ、そう?面倒、かな?」
「面倒だよ」
握られた手をそのままに、芽衣の頭の上で絢人が低く囁く。面倒だと、煩わしいのだと、本気で思っている声に、芽衣の長い睫が震えた。
「じゃあさ、倉澤くんと仲良くなりたいって思うのは、倉澤くんにとっては迷惑なの?」
「は?」
「わたし、倉澤くんに仲良くして欲しいと思ってる…けど、迷惑なの?」
逸らされた瞳に、何か言おうと唇が開きかけた。
けれどすぐ、何を言うべきなのか見失って、閉じたまま。
絢人の視線が外に逃げる。
静寂に、居心地の悪さを感じたのは初めてだった。
カナカナカナ
ヒグラシが鳴いた。
「……華原、これ何の鳴き声か知ってる?」
訊ねる。芽衣は少し聴いて、頷いた。
「むし」
「うん。外れてはないけどね」
「セミ」
「種類は?」
「なに?」
逆に聞き返され、笑う。
「ヒグラシだよ」
答えると、芽衣の唇がヒグラシと辿った。
「ヒグラシって、夕方に鳴くやつじゃないの?」
「そうだね。日暮れ時に鳴くから、ヒグラシなんだろうけど、実際は光に敏感だから早朝とか、昼間でも曇った時は鳴いてる」
「なるほどー。いわれてみれば、なんか雨降りそうだもんね、暑いけど。ていうか、虫好き?」
「嫌い。あの脚が気持ち悪い」
「じゃあ触れない人?」
「触れるけど、あまり触りたくはないな」
「そのわりに詳しいね」
「昔、妹に図鑑読んでやったことあるから」
「妹に図鑑!?絵本じゃなくて!?」
「うん、図鑑。あいつ、虫とか魚とか好きだったから。今は虫嫌いだけど」
「あー、なんかちょっとわかるかも。ちっちゃい頃はね、けっこう平気なんだよね。なんでか。あっけどバッタは駄目。一生駄目!もうね、バッタ見るだけで、こう、い゛ーってなるね。ほんと苦手。お母さんも苦手だったから、これはもう遺伝だと思う。うん」