小悪魔は愛を食べる
「や、うん。実際ね、私、自分でもちょっと吃驚してるのよね。だって私、やっぱり絢人に依存してたじゃない?正直、寄りかかってたと思う。この間まで、絢人と別れたら私には何も残らないって思ってたから」
一息、挟んで、にこりと初音が微笑んだ。
「…けど、別れてみたら違ってた。私は私のまま、こうやって絢人と話せるし、芽衣ちゃんとも普通の友達みたいに話せるし。ほら。夏休み開けたら学祭も控えてるから最近生徒会忙しくて、そうなると実は結構充実してるのよね」
本当に充実はしているのだろう。
楽しそうに話す初音の言葉の中に、嘘は見当たらなかった。
そして、みつけたいとも思わない。
自分と初音は別れた以上最早恋人ではないのだ。
別れた事による初音の苦悩に、気付いていいのは自分ではない。
だから、初音が今必死に取繕うならば、決して触れたいとは思わない。
反応を待っている初音に、そう。と緩慢に頷いて返す。
腕を掴んでいた手が静かに離れた。
その手を掴んで、銀色の金属を握らせる。
「なに?」
「ここの鍵。職員室か用務員室に返しておいて」
言うと、初音の表情が険しくなった。
「貴方、まさかこのまま帰るとか言うんじゃないでしょうね?」
「あたり。このまま帰るから、返しておいてくれる?」
言葉尻に疑問符をつけているにも拘らず、有無を言わせない問い方に初音は忍び笑い、仕方ないなと背を向けた。
なんでか、涙腺が熱を帯びたような感覚。きっともうすぐ、涙がこぼれる。
絢人に、見られたくなかった。