小悪魔は愛を食べる
頭に添えられた大きく骨ばった手が初音の髪を撫でる。絢人とは違う、遠慮がちな手つきに慣れなくて、身を捩る。
くしゃり。髪を握られた。痛くはない。労わるような、優しい動作だった。
「どう?俺が付け入る隙はありますか」
苦笑混じりの問いかけに、なんて馬鹿な人なんだろうと思った。
計算高くて少し荒っぽい人だと勝手に思っていたのに、実際はこんなにもお人好しの馬鹿だったとは。
人間というのは、つくづく分からない。
表面に見せる顔だけが全てではなくて、触れてみなければ分からない顔が複数存在する。
裏とか表とか、そういう概念をとっぱらったところに、きっとその人間が構成されていて、上っ面だけで全てを知った気になっていた自分はなんて子供だったのだろうかと痛感した。
つまり絢人はずっと、こんな子供のおもりをしてくれていたのか。
考えてみて、初音はまた笑う。今度はゆるく、柔らかい笑みだった。
貴方も大概、馬鹿だわ。
「私ね、まだ絢人が好きなの」
そうだ。すきなのだ。
まだ、絢人が好きで、好きで、すきで、だからこんなに胸が苦しい。
「けど今、真鍋君が泣かせてくれたから、ちょっとスッキリしたみたい」
真鍋の目が怪訝そうに細められる。
だがすぐ、困ったような曖昧な色に変わって、やがて答えを求めるみたいに初音の瞳を覗き込んだ。