小悪魔は愛を食べる
「あの、俺…これから毎日、もっと勉強するし。それに芽衣ちゃんの欲しいものなんでも買ってあげるし、行きたいところ連れてってあげるし…だから、だから……」
なにが言いたいのだろうと自分でも思う。
しかし他に少女を引き止める言葉が見つからない。歯痒さで背中まで眉くなりそうな心境で男はテーブルの上に置かれた少女の手を握った。
強く握ったら折れそうな可憐さに、不謹慎にもときめいた。
「好き、なんだ。別れたくない」
情け無い声だった。嗚咽雑じりだった。それでも。
それでも引き止めたかった。
好きなのだ。わがままで奔放で素直なこの少女が。
可愛くて仕方なかったのだ。
好きで好きで可愛くて、この子が望むならなんだってしてやりたかった。けれど。
「だめ。別れて」
少女の手が男の手からするりと離され、伝票を持った。
付き合い始めてから今日まで、少女に伝票を持たせた日なんてなかったのに。
なのに今、まるで二人の仲を清算するとでも言うような終わりに、呼吸が震った。
カタンと椅子が立てた音がひどく遠く耳に届く。握った拳が震えて、噛み締めた口に涙がしょっぱかった。
「ばいばい」
普段と変わらない、可愛らしい声で告げられた終わりに、男はただ項垂れたまま、そこから一歩も動けない。
言いなれた「愛してる」が、違う世界の不可解な言葉のようにひどく遠くて。もう声にもなってくれなかった。
言う相手すら、最早どこにもいやしない。
愛が、ひどく、遠かった。
なにが言いたいのだろうと自分でも思う。
しかし他に少女を引き止める言葉が見つからない。歯痒さで背中まで眉くなりそうな心境で男はテーブルの上に置かれた少女の手を握った。
強く握ったら折れそうな可憐さに、不謹慎にもときめいた。
「好き、なんだ。別れたくない」
情け無い声だった。嗚咽雑じりだった。それでも。
それでも引き止めたかった。
好きなのだ。わがままで奔放で素直なこの少女が。
可愛くて仕方なかったのだ。
好きで好きで可愛くて、この子が望むならなんだってしてやりたかった。けれど。
「だめ。別れて」
少女の手が男の手からするりと離され、伝票を持った。
付き合い始めてから今日まで、少女に伝票を持たせた日なんてなかったのに。
なのに今、まるで二人の仲を清算するとでも言うような終わりに、呼吸が震った。
カタンと椅子が立てた音がひどく遠く耳に届く。握った拳が震えて、噛み締めた口に涙がしょっぱかった。
「ばいばい」
普段と変わらない、可愛らしい声で告げられた終わりに、男はただ項垂れたまま、そこから一歩も動けない。
言いなれた「愛してる」が、違う世界の不可解な言葉のようにひどく遠くて。もう声にもなってくれなかった。
言う相手すら、最早どこにもいやしない。
愛が、ひどく、遠かった。