小悪魔は愛を食べる
「なーに喧嘩してるの?そういう青春ごっこは授業中じゃなくて放課後にしなさい」
放課後ならいいのかと何人か突っ込もうかと迷ったが、社の言動に一々突っ込んでいたらキリがないとわかっている生徒達は誰一人として突っ込みはしなかった。
「まじむかつく。しね」
悔しげに吐き捨て、足早に校舎に向かっていく佐渡を見送りながら社が「生理かしら?」と呟く。絶対違うと誰もが思ったが、やはり誰も何も言わなかった。
「それで、何が原因なの?先生に話してごらんなさい」
「別に大したことじゃありません」
「あれだけ怒鳴りあって大したことないじゃ報告できないでしょ?先生困るの、そういうの」
一生困ってろよと言いたいのを堪えて姫華が背を向ける。社の手が肩に触れ、姫華は思わず振り払おうとするが、それより一瞬早く小さな声が社の興味を抜群に引いた。
「あ。水谷先生が攻め上がりましたよ」
「え、うそー!!!ちょ、え、み、見えない!ど、どきなさい!お願いだからみんなどい、どいてっ…どけゴルァアア!!うキャー!!水谷せんせーい!!すてきー!キャー!!!イヤー!!抱いてぇぇええー!!!!」
喉が張り裂けるんじゃないかというくらいの大声量を発揮しながら社はスタンドの最前列に駆けていった。さすが体育教師と感心半分呆れ半分で生徒が見守る中、姫華はぶすくれた表情で一人の少女を見詰めていた。
少女はにこりと静かに微笑み、芽衣と姫華のまん前まで歩み寄る。
「華原さん、腕平気?保健室に行くなら今のうちだけど」
「だ、だいじょぶ。ありがとう、えと、さ、里中…さん?」
当たってますようにと願いなら呼びかけた芽衣に、里中がまたふんわり微笑む。