小悪魔は愛を食べる


「わぁ。名前覚えててくれたんだ?嬉しいなぁ。でも初音でいいよ。クラスメイトなんだし。ね?」

「う、うん。初音ちゃん」

「あれ?呼び捨てでいいのに。あ、私も芽衣ちゃんて呼んでもいーい?」

「うん」

芽衣が頷くと里中は女から見てもとても可愛らしく笑って姫華に言った。

「三島さんて友達思いなんだね。いいね、そういうの。羨ましいな」

「ふーん。あっそ」

里中の顔を見ないまま姫華が芽衣の手を引っ張ってスタンドの段差を下っていく。眉根を寄せたまま無言でグラウンドに下りる姫華に芽衣が「あ」と握られた手を引いた。

「ヒメ、爪折れてる」

「ああ、さっき佐渡つかんだから」

「……」

「なに?スカルプチュアだからすぐ直るよ」

何も言わない芽衣の頭をくしゃりと掻きまぜて「気にすんな」と笑う姫華。芽衣がぽつり呟いた。

「……ヒメってさ、可哀想だね」

「は?」

「わたしなんかに捕まって、面倒ばっかかけられて、ほんとにかわいそう」

顔を上げた芽衣は瞳に姫華を映してにっこりと満面の笑みを浮かべていた。毒気を抜かれて、ふっと体のどこかが軽くなったような気がして、今後こそ姫華は素直に笑った。

「好きでやってんだよ、馬鹿」

言うと同時、照れくさそうに姫華の手が芽衣の額を小突いた。

「おいおい、なにイチャついてんの?」

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