小悪魔は愛を食べる


丁度良くハーフタイムになったのか、壱弥がミネラルウォーターのペットボトルのキャップを回しながら、地表から一メートルちょい程高くなっているスタンドに立ってる姫華と芽衣を見上げていた。
にやと姫華が笑う。

「妬いてんのかイチ?」

グラウンドとの仕切りの役目を果たす背の低いフェンスに腰で寄りかかり、姫華がからかおうとすると、その手には乗らないとばかりに壱弥が芽衣に向かって手を伸ばす。

「妬いてますよー。おいで芽衣ちゃん」

おいでと言われ、芽衣は素直にグラウンドからでは頭の上なのにスタンドに立つと腰の高さまでしかないフェンスに手をかける。

ひょいと簡単に跨いでしまえるのは、ジャージの特権だろう。普段の制服のスカートではこうはいかない。

一メートルちょいを上手く飛び越えて着地した芽衣を壱弥が抱き締める。
「芽衣まじ可愛い」と覆いかぶさるように抱きつく壱弥はまるでしつけのなってない大型犬みたいだ。

そんな壱弥に暑いやら苦しいら文句は多々ある。しかし、まず芽衣が口にしたのは運動した後の男の子特有のにおいについてだった。

「わ!くさいよ!汗くさい!やだー」

「やだじゃありません。我慢して!」

「なんでだよ」

じたばた暴れ出した芽衣を強く抱き締めて無茶を言う壱弥に、姫華が笑いながら突っ込む。

やがてにおいに慣れたのか、芽衣が大人しくなった。

すると今度はグラウンドの端っこを激走してくる水谷の足音と大声が三人の耳にぶつかるようにして届いてきた。

「瀬川ー!お前、抜けるなら俺に許可とれー!!そんなんじゃ、お前、あの、あれだ!立派な商社マンにはなれんぞー!!」


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