小悪魔は愛を食べる
「く、倉澤くんて……里中さ、じゃなくて、えと、初音ちゃん…と付き合ってる、て。ほんと?」
「うん?本当だったと思うけど」
「あの、さ…初音ちゃんとわたし、だと、わたしの方が顔かわいい、よね?」
「うん。芽衣のが可愛い。俺の好みでいくと」
「そ、そっか…ふーん。ま、そうだと思ってたけど。知ってたけど。つか当然だけど。うん」
「で、なんなの?」
怪訝に芽衣を凝視するだけになった壱弥に代わって姫華が続きを促すと、またもや芽衣はごにょごにょと話し出す。
「も、もしね、付き合ってるって知ってて告白なんかしたら、さ。性格、悪い子だって…思われるかな?」
「…………」
お前今までそんなの気にした事ねーじゃん。今更なに言ってんの。つか彼女から盗ってこそ恋愛は面白いし価値があるって言ってなかった?いつからそんな常識ある子になったわけ?
と、壱弥と姫華が顔を見合わせて固まった。
それくらい、芽衣の様子は尋常じゃなくおかしかったのだ。
「め、芽衣さー…どうしたの?なんか変なものでも拾い食いした?」
「してないよ。したこともないよ」
「じゃ、じゃあ……か、風邪かなー?凛子ちゃん、体温計かしてー」
「風邪ひいてないし、熱もないよ」
「……あ、暑さで脳みそ沸いたんじゃ…」
ゴン!と姫華の拳骨が壱弥の頭に直撃した。どうやら言い過ぎたらしい。
何をどうしていいのか分からずに二人が頭を抱えたいのを我慢していると、凛子がキイと椅子を鳴らして立ち上がった。
「倉澤って、倉澤絢人のこと?」
凛子の問いに姫華と壱弥が頷き、芽衣は「倉澤くんてアヤトっていうの?」と首を傾げる。
こいつ名前も知らないくせに告るとか言ってたのか?と凛子を含めた三人がどんよりとした空気に包まれた。