小悪魔は愛を食べる
「本格的に機嫌悪いね。なんかあった?」
「べつに」
きゅ、きゅ。足音がまた響く。
クラスメイト達は既に廊下の向こうに消えて、廊下には絢人と初音だけだった。
「どうしたら機嫌直りそう?」
「……」
息がかかりそうな間近になって、漸く初音が顔を上げた。
「キスしなさいよ」
見上げるというより、にらみつけると言ったほうが正しい高圧的な初音の視線に絢人の唇がニィと笑みを象る。
「どこにしてほしいの?」
「どこならしてくれる?」
「唇以外ならどこにでも」
長身を屈めてゆっくり顔を寄せてくる絢人の伏せ気味のいやらしい視線が、初音の瞳を覗き込む。
完全に自分をなめきっている絢人が憎らしくなった初音は、汗で僅かに湿った絢人の髪を引っ張って見下すように哂った。
「なら唇にして」
「わがままだね」
初音の白い頬に手を添えて丁寧に唇を重ねる。
ぬるりと柔らかい感触が口の中に侵入し「んうぅ」と初音が鳴いた。
ちゅく、ちゅく、と濡れた音が中か外か分からないまま耳に響いてくる。
絡められて吸われて、歯列をなぞられて、ひくんと体が震えた。
手が絢人のジャージを強く握りすぎて白くなっている。
頭の後ろを掴まれ引くに引けない状況に、初音は遂にぐいと絢人の胸を押し返した。
「もういいんだ?」