小悪魔は愛を食べる

二年の半ば。
入学した時から好きだった彼が、当時付き合っていた彼女に問いただされている現場を目撃した。

覗き見なんて無粋な真似、するつもりなんてなかった。なかった、のに。

足元から凍りついたみたいに体が動かなかった。

立ち去りたいのに、指先すら震えはしても、自分の思うように動いてはくれなかった。

『付き合ってるのに、なんで私を一番にしてくれないの?なんでいつも一緒にいてくれないの?なんで恋人の私より華原さんを優先するの?』

華原、芽衣。
入学した時から知ってる名前。嫌になるくらい見てきた顔。
いつも彼の横で彼に甘えて守られて大切にされて笑ってる、無邪気な子供みたいな女の子。

可愛いかどうか、百人に聞いたら百人みんなが可愛いと答えるだろうその整った顔。鈴やかな声。透き通るような白い肌に華奢な痩身。緩くウェーブしたふわふわ艶髪。

大よその女の子がみんな欲しがるものを全て持って生まれてきたみたいな本当に可愛い女の子。

彼の横に並ぶのが似合うとか似合わないとかそういう問題じゃなく、隣にいるのが当たり前だとでもいうように、華原芽衣は彼に一番近かった。

もし自分が、今彼を問いただしているあの女の子だったら、どうだっただろう。我慢できただろうか。

好きな人が自分じゃない誰かを好きで、それでも自分と付き合ってくれている。

なんで?なんで、付き合ってくれるの?

答えは出ないまま、疑問だけが先走る。

『黙ってないで何か言ってよ…』

泣きそうな声が耳に、心に、痛い。

彼はなんて答えるのだろう。怖い。聞きたくない。でも、体が逃げるのを許してくれない。どうしよう。どうしたらいい。
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