小悪魔は愛を食べる
3.黒星
* * *
「めーいちゃん。帰ろっか?」
賑やかな教室の端っこで指定のスクール鞄を肩に引っ掛けた壱弥が鞄にジャージを詰めている芽衣の背中にくっつく。いつもならばここで「うん、かえろ」と返してくるのが日常だが、どうやら今日は違うらしく、芽衣はふるふると首を横に振った。
「だめ。だって今日倉澤くんに告ってから帰るんだもん」
「えー?明日にしよーぜ、明日」
「だーめ。たぶんすぐ済むと思うから、イチここで待ってて」
「やだ。俺も行く」
「意味がわかんない。イチが来たら邪魔じゃんか」
「ひど!」
「ひどくない。どうせナナもヒメも来ると思うし、三人で待ってて!ね?」
念を押すみたいにずいと迫ってきた芽衣に壱弥がハイハイと頭を掻いた。
手持ち無沙汰に芽衣の机に腰掛けてケータイを開くと、着信二件に、メールが四件。
着信から確認すると、二件とも「紗江子」と表示される。
瀬川紗江子。壱弥の実母だった。
なんだ、珍しい。と思いながらぽちぽちとメールを開く。と、そこにも紗江子。他の三件は真鍋と姫華とどうでもいいメールマガジンだった。
仕方なく、まず紗江子のメールを開く。内容はこうだ。
『今日は華原のお家に行ってきます。晩ご飯は芽衣ちゃんと一緒に外食でもしてね』
無言で了解と心得て、次に姫華のメールを開いた。
『放課後そっちの教室行くから待ってろ』
実に簡潔だ。さすが姫華と壱弥が感心する。
これで芽衣の予想は当たった訳だ。俺は留守番する価値があるらしい。
そっと笑った壱弥に、芽衣が「なに?」とメールを覗き込んだ。