小悪魔は愛を食べる

身長は標準より少し高い程度だが、この顔には高過ぎない方が似合っていて逆に良かった。

声は若干低めで、話すリズムが柔らかく、聞いていて心地良いリズムで流れるように話す壱弥の声は相手の耳に負担をかけない。

他にも、明るくスポーツ万能で頭もそこそこ良くて女の子に優しく、一日のその大半を芽衣と過ごすが不思議と友達が多いとなれば、壱弥は誰の目から見ても優良物件だった。

顔がいい上に性格も良く器用で男女問わず好かれるという男の子が、女にとってどれだけ魅力的なのか、未だ衰えない人気がその証明になるだろう。

そんなような理由で、瀬川壱弥はとにかくモテるのだった。

そしてそれはこの教室でも同じで、三年目にして漸くクラスが同じになったのにそれを嬉しいと感じる間もなく、嫉妬する女の子の群れが四角い箱の一角で出来上がっていた。

華原芽衣は、男には好かれるが女には殆ど必ず嫌われる。奔放で飽きやすく、人の彼氏すら簡単に盗る。これが噂ではなく事実なのだから、話したことも無い女の子に嫌われるのも仕方ないだろう。

ともすれば一見不釣合いなような二人が実は幼馴染で同じ屋根の下に暮らしていて、校内でも常に一緒にいるとなると、壱弥を好きな子は本当に面白くない。

よって芽衣はクラスで女子から孤立していた。

教科書や靴やジャージに落書きされるのも、破かれるのも、捨てられるのも、最早慣れっこだ。別に今更騒がない。新しく買うだけだ。

だが、嫌がらせされているのにちっとも気せず楽しそうに壱弥の横で無邪気に笑っている芽衣の姿は、女の子の嫉妬の益々増徴させる対象にしかなりえなかった。

可愛らしい容姿も、ステータスな男も、何者にも屈しない強い心も、全てを持っているかのように笑う少女は、誰の目にも強く強く焼き付けられる。

羨ましい。妬ましい。

例えそれが隣の芝は青くていいなと思うような愚かな妬みだったとしても、四角い教室という箱の中に自らの愚かさを逆に笑えるだけの賢者は存在しなかった。

災厄しかもたらさない、パンドラの箱の中。

愚かさを正当化している事に気付かないまま、そうして人は醜く歪んでいくのだろう。

つまり人は、人ゆえ、決して賢者にはなれないのだ。それは人であるかぎり、永遠に。
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