小悪魔は愛を食べる
* * *
長引いたホームルームに飽き飽きしながら、絢人がB組の教室の前の廊下を通過しようとすると、丁度真横に差し掛かっていた教室のドアが大きな音を立てて開いた。
「く、倉澤くんっ!」
「……」
呼びかけに視線を向けると、僅かに髪を乱した華原芽衣がにこっと非常に可愛らしく微笑む。
なるほど。暗がりで見た時も可愛いと思ったが、明るい場所で見ると更に四割増しくらい可愛い。
これが普通の男の子らしい生活を送っている健全な男子生徒ならば、その笑顔だけでどぎまぎして当たり前に見据える事すら困難だろうと絢人は納得した。
「あのね、お昼休みはココアありがとう」
「うん」
ひとつ頷いてすぐさま絢人は芽衣から視線を外した。
この会話が最終的にどういう流れになるか考えない程、絢人は初心でもなんでもない。
面倒ごとは嫌いだ。出来うるかぎり避けて通るのが定石。
ともすればこれ以上の会話は必要なく、このまま通り過ぎてしまえばいいのだ。
そうすれば優等生のまま、真面目堅物のレッテルのまま、この先もやっていける。
「悪いけど、急いでるから」
言うタイミングを計っていた芽衣の考えなどとうに見越していた絢人は、芽衣の口が開く瞬間自ら言葉を割り込ませて続きを封じた。
これでもう何も言えないだろうと一歩、足を前に踏み出す。