小悪魔は愛を食べる
しかし、次に芽衣の口から零れ出た、何かに気付いたような「あ」という声に、反射的にもう一度声の主をばっちり見てしまったのだ。
そして声の主はまるで絢人の負けを宣言するかのように、にこりと可愛く笑った。
「わたしね、倉澤くんの事好きになっちゃったみたいなの」
やられた。
絢人の目が細められた。芽衣はまだ可愛らしく微笑んでいる。
一瞬の間。
絢人が後悔の念にかられて吐き出してしまいそうになる溜め息を飲み込みながら、どうやって切り抜けるかと思案し始めた矢先、芽衣が出てきた教室の中に彼女である里中初音を見つけた。
彼氏が告白された現場に気付かないふりで友人らしき女の子数人と会話してはいるが、指先が苛立ったように爪を弾いている。
気付いてるな。と絢人は諦めて芽衣に向き直った。
上目遣いで心細そうに片手を唇よりやや下に構える。袖からちょっとだけ出た指先がなんとも可愛い。
照れたように伏せられた睫は頬にくっきり影を落とし、まさにどこからみても美少女だった。
いっそこのまま沈黙というのも、面白いかもしれないと絢人は思った。
耐え切れなくなった芽衣が何か言うか、はたまた初音が出てくるか。試してみるのも悪くないなと。
だがそんな絢人の悪戯心も、ギャラリーの前では諦めざるおえない。早く断って立ち去らなければ、今はまだ数えられる程度の野次馬が一分後には二倍に増えているだろうという確信があったからだ。
そうと決めると絢人はふっと無表情から少し不機嫌そうな表情をして芽衣を見下ろした。
「俺、彼女いるから」