小悪魔は愛を食べる
「信じらんねー、倉澤。ふつー華原振るかぁ?」
「まぁ、あいつ彼女いるしな」
「だれ?」
「里中。ほら、生徒会の」
「ああ、あの美人な。でもやっぱ華原と比べたら、さぁ」
「俺は華原かな。だって可愛いし」
「でもあの子性格ちょー悪いし。振られて当然じゃん」
「そうそう。すっきりしたー」
「お前ら自分が可愛くねーからって僻むなよ」
廊下からは男子の無神経な会話が聞こえ始め、女子の笑い声までする始末。
芽衣は初めての事に頭と心がついていかず、壱弥の胸に縋り付いて体を小さくした。
「帰ろっか」
耳に直接吹き掛けるみたいに問われた壱弥の言葉に芽衣がまた頷く。
まだ芽衣の机の前に居た姫華と七恵が心配そうに壱弥を見つめていた。
芽衣の頭を宥めるように撫でてやりながら、壱弥が姫華に目配せし、芽衣に気付かれないように唇を動かす。
姫華。芽衣の鞄とって。
机の横に掛けられていた鞄を持って姫華が歩み寄ると、「さんきゅ」と壱弥が受け取った。
宥められるままくっつく芽衣の手を引いて壱弥が教室を出ると、好奇の視線が芽衣に集まる。するとそれまで穏やかに微笑していた壱弥の眼光がぎっと鋭い力でギャラリーに向けられた。
「見世物じゃないから」
引き摺るように芽衣を連れて帰っていった壱弥を眺めながら、姫華が口の端を釣り上げる。
それを見た七恵が「芽衣だいじょうぶかな?」とこぼした。
「大丈夫じゃない?案外明日になればけろっとしてると思うし。それよりさ、ナナはエステ行くよね?」
「う、うん!行きます!脱毛したいです!」
「…脱毛かよ」
んじゃ行くか。と七恵の肩を叩いて姫華が歩き出す。既に野次馬は殆どどこか方々へ散っていた。