小悪魔は愛を食べる
◆ 二章:雨を呼ぶ雲り空

1.梅雨の放課後

* * *


六月の終わり。遅れた梅雨が急ぎ足でやってきた。
湿った空気が肌にじっとり絡みつくようで気持ち悪い。

しかし何故か不思議と雨は嫌いではないなと、曇った空のおかげでどんより暗い雰囲気を醸し出す教室の前の廊下からは確実に死角になっている階段に座り、ぼんやりと芽衣は思った。

降ればいいのに、雨。

呟きは小さくて、声になったのかも定かではない。


約一週間程前から、華原芽衣が倉澤絢人に振られたという噂が校内を目まぐるしく駆け巡っていた。

壱弥も姫華も七恵も気にしていないのか、気にしないようにしているのか。何も言ってこないのがなんだか腑に落ちない。

同じクラスの人間は男女問わず芽衣を気にしてはひそひそと話したりする。別に腹は立たないが、やはりいい気分ではなかった。

ただ、唯一他のクラスメイトと違うのが壱弥の他に二人。
里中初音と、真鍋宗佑。この二人だけは対応が違った。

初音は倉澤の彼女という立場を踏まえてか、何も言わない。

真鍋は芽衣が振られた翌日の朝すぐに寄ってきて、「これでお前も振られた奴の気持ちがわかっただろ。以後優しくするように」と偉ぶったのを姫華に殴られていた。

あれには笑ったなぁと、芽衣は緩くはにかんだ。

「はやく雨、降ればいいのに」

呟きはまた、空気に霞んでいくかのように思われた、その時。

「それは困る」

芽衣が思わず顔を上げる。いつの間に居たのだろうか、芽衣の座っている場所よりひとつ上の階の手摺から、倉澤絢人が芽衣を見ていた。

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