小悪魔は愛を食べる

取り残された芽衣は、じわじわ背筋を這い登る不愉快なものの中に、ふと最近夢見がよくないのを思い出した。

繰り返し、繰り返し、思い知らしめるように見せられる記憶の断片に、自分が何なのかわからなくなる。

酷い汗をかいて飛び起きる事も、隣で寝てる壱弥にしがみついて眠れない夜が明けていくのを眺めてる夜も最早珍しくはない。

毎夜の夢の中で、あの人はいつも狂ったように顔を醜く歪めて泣きじゃくる。

『愛しているの。あの子を、本当に愛しているの』

半狂乱になって泣き叫ぶあの人の言葉が、湖畔に波紋を広げるように静かに甦る。
泣いていた。愛していると、髪を振り乱して泣いていた。大好きな人。

ああ、わたしはきっとこの先も、この言葉だけで生きていけると、狭まった視界を閉じて膝を抱えた暗い廊下。

幸せだった。愛されていた。誰より愛していた人に、わたしは愛されていた。

『おかあさん、めいね、どこもいたくないよ。だいじょうぶだよ。だからね、はやく、おうちにかえろう?』

暗転。暗転。暗転。

世界は、暗転。もう全て、戻りはしない過去なのだ。


震える手を自分の手でぎゅっと握り締めて、芽衣は顔を上げた。





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