小悪魔は愛を食べる
視界には硬直する三人の女子生徒が映っていた。
無言でずかずか歩み寄ってくる絢人に、少女達は心臓が飛び出るような気持ちでこの最悪の状況を切り抜けるための言葉を探し始めた。
「く、倉澤くん、どうしたの?忘れ物?」
「違うよ。俺このクラスじゃないから」
「えっと、じゃあ見回り?」
「そう思う?」
「………あ、あの…」
すっと細められた鋭利な眼光に耐え切れずに一人教室から逃げていった。
それを踏ん切りに残った二人も逃げようと後退さるが、絢人が先に踏み込んだ事によって逃げるタイミングを失った。
「それ、アンタの?」
「え」
絢人の視線の先が自分の手の中のパッケージに包まれたままのマスカラと抜き身の二万円だという事に気付いた少女が思わずたじろぐ。
動けなくなった二人の少女の前に一歩一歩ゆっくりと近付き、絢人は無表情のまま言った。
「違うなら置いてってくれる?」
言われた直後、けたたましい物音を立てて二人は教室から逃げ出て行った。
彼女たちが居たあたりの床に散らばった化粧品や財布やノートが哀愁を漂わせている。
『終わるの、待ってるから』
絢人は手近な机に腰掛けて、芽衣の言葉を思い出した。
芽衣が何を待っていたのかも、今は行くなといった理由も、ここにきて全て理解できた。
「……馬鹿?」
他に言いようがない。
あの状況を知っていたのなら誰かに助けを求めたら良かったのだ。
いくら過去に冷たく芽衣を振った絢人でも、あんな状況で助けを求められたら邪険にするはずがないのに。
逆に今は行くなと縋ってきたのが無性に不愉快だった。
カタンと音がする。振り返ると、芽衣がどこか困ったような複雑な表情で絢人を見ていた。