小悪魔は愛を食べる
「おいおいおいおいー?なにその言い方ー。誰が華原を倉澤の魔の手から救ったと思ってんだ?俺よ、俺!」
「……倉澤の魔の手?なんだ、それ」
壱弥が寝せていた首を起こして訊く。しまったと真鍋が自分の口元を手で覆って芽衣に目配せをした。
それはつまり、誤魔化せという指示だったのだが、何をどう解釈したのか芽衣はきょんと真鍋を見てから壱弥を見て、「ああ、あれか」と一人で納得し、にこりと邪気の無い笑顔で云った。
「キスされたの。倉澤くんに」
「はぁっ!?」
前に身を乗り出していた壱弥が驚いた拍子に椅子からずり落ちて床に膝をついて芽衣を見上げる。
七恵は「へ?」と口を開け、春日は目を瞬かせていた。
「ちょ、そうじゃねぇだろ!誤魔化せって言ったの、俺は!」
「えー?なんでイチに嘘つく必要あるの?嘘は悪だよ」
「はぁ!?なんだよその理屈は。意味わっかんねぇー!けどいい心がけだな、うん」
妙なところに感心した真鍋が芽衣の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
芽衣は迷惑そうにちょっと横に引いた。
そうしている間に、フリーズから復活した七恵が飛び跳ねるように椅子から立ち上がり、芽衣の両肩を掴んだ。
邪魔だといわんばかりに押し退けられた真鍋が「おわっ」と転びそうになって、寄りかかっていた枠にしがみ付いた。
「い、いつから付き合ってたの?」
「え」
「だから、倉澤君といつからキスするような仲になったのかって訊いてるの!」
七恵の剣幕に押されて芽衣がたじろぐ。
「う、え、あ……つ、付き合ってない、よ?」
「……ん?じゃあ付き合ってないのにキスしたの?」
「う、うん」
「なんで!!?」
がくがくと揺さ振られ、「う、あ、うう」と意味のなさない声が呻きのように押し出される。
このままじゃ三半規管がやられると、壱弥が七恵の肩を後ろから引っ張った。