小悪魔は愛を食べる
「やめてあげて。うちの芽衣ちゃんが死んじゃうから」
「え?あぁ!!芽衣、だいじょうぶ!?」
「うぅ…ナナにやられる日がくるとは思わなかったよ」
よろりと額を押さえてよろけるふりをした芽衣を真鍋が半眼で突付いて言う。
「冗談言えるんなら大丈夫じゃね?それより俺のが扱い酷かっただろ、萩元」
「あ、ごごごめん!!勢いで」
「殺人犯はみんなそう言うよね」
「め、芽衣っ」
芽衣の突っ込みに七恵が焦って、だがしかし、本来の議題を思い出したのか、きっと強い目で芽衣に向き直った。
「そ、それより芽衣はなんで倉澤君とキスしちゃったの!?」
壱弥を気にしながら芽衣に詰め寄る七恵に、芽衣が髪の毛の先を指でくるくるいじりながら答えた。
「したんじゃなくて、されたんですぅ」
「なにそれっ!?」
「いやーほら、わたしってやっぱ可愛いからね、倉澤くんもつい、ふらっと、こう、キスしちゃったんじゃないかなと思うんだけどね。うーん、美しいって罪だよね。ごめんね、真鍋くん」
「なんで俺に謝る?」
わざとらしい芽衣の態度に、真鍋が仏頂面でひくりと口の端を吊り上げ、壱弥は笑うのを堪えているのか後ろを向いて肩を震わせている。
七恵がおろおろと一人で困るのを後目に芽衣はもう一度真鍋に謝った。
「ごめんねぇ、真鍋くん。お詫びにキスしたげよっか?」
芽衣が自分の唇に人差し指を立て、ちゅっと音を鳴らす。
すると、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、真鍋が芽衣の頭を鷲掴んで押し潰すように指に力を込めた。
痛い痛いと暴れる芽衣に、さすがに壱弥が手を伸ばして真鍋から引き剥がそうとしたのだが、真鍋の手はしつこく芽衣の頭を握っていて、放課後の進路指導室は悲鳴やら喚き声やらで一気に賑やかになっていた。
「やれやれ、君たちは本当に仲が良いですね」