小悪魔は愛を食べる
* * *
芽衣の祖父である華原一寿は、地元の歴史に名を残す昔の大地主の家系から続く華道の名家に生まれた長男で、そんな彼が暮らす本家は広大な敷地を有す歴史に比例して古い家で、幾度か改築したものの、それでも当時の腕のいい職人達が持てる技術の全てで建てられたこだわりが今なお残っている。
しかしこの由緒正しい家は、一寿の次代の跡取りに恵まれず、直系の一人娘は華道の才がなく、奔放で、古いしきたりに縛られるのを嫌って外へ出て行った。
よって一寿は自分の弟子であり、娘のように可愛がってきた紗江子の夫でもある真紘に、華原の跡目を継いで欲しいと、七年前に現役から退いた。
だから現在は真紘が家元として華原を取り仕切っているのだが、週末には都心部のマンションへ帰るあたり所謂雇われ店主ならぬ、雇われ家元と言った所がしっくりくるだろう。
そんな旧家の裏庭から繋がる勝手口。だだっ広い玄関先で、壱弥の声が反響した。
「こんばんはー。壱弥ですけどー」
少しの間があって、長い廊下の奥の方に人影がちらついた。小走りで駆けてくる姿と足音が徐々に近くなるにつれて芽衣の表情が明るくなった。
「真紘パパこんばんはー!」
「こんばんは、芽衣ちゃん。よく来たね。ご飯まだ?それとも、もう食べちゃった?まぁ、美央ちゃんが気合入れて作ってたから、まだじゃなくても食べてもらうけどね」
「父さん、俺はどうでもいいんですか?」
「あれ?いたのか、壱弥」
「相変わらずムカつく」
「まぁまぁ」
舌打ちした壱弥を芽衣が宥め、真紘が「冗談だよ。よく来てくれたね」と笑った。
壱弥にそっくりな優しい笑顔。
芽衣の祖父である華原一寿は、地元の歴史に名を残す昔の大地主の家系から続く華道の名家に生まれた長男で、そんな彼が暮らす本家は広大な敷地を有す歴史に比例して古い家で、幾度か改築したものの、それでも当時の腕のいい職人達が持てる技術の全てで建てられたこだわりが今なお残っている。
しかしこの由緒正しい家は、一寿の次代の跡取りに恵まれず、直系の一人娘は華道の才がなく、奔放で、古いしきたりに縛られるのを嫌って外へ出て行った。
よって一寿は自分の弟子であり、娘のように可愛がってきた紗江子の夫でもある真紘に、華原の跡目を継いで欲しいと、七年前に現役から退いた。
だから現在は真紘が家元として華原を取り仕切っているのだが、週末には都心部のマンションへ帰るあたり所謂雇われ店主ならぬ、雇われ家元と言った所がしっくりくるだろう。
そんな旧家の裏庭から繋がる勝手口。だだっ広い玄関先で、壱弥の声が反響した。
「こんばんはー。壱弥ですけどー」
少しの間があって、長い廊下の奥の方に人影がちらついた。小走りで駆けてくる姿と足音が徐々に近くなるにつれて芽衣の表情が明るくなった。
「真紘パパこんばんはー!」
「こんばんは、芽衣ちゃん。よく来たね。ご飯まだ?それとも、もう食べちゃった?まぁ、美央ちゃんが気合入れて作ってたから、まだじゃなくても食べてもらうけどね」
「父さん、俺はどうでもいいんですか?」
「あれ?いたのか、壱弥」
「相変わらずムカつく」
「まぁまぁ」
舌打ちした壱弥を芽衣が宥め、真紘が「冗談だよ。よく来てくれたね」と笑った。
壱弥にそっくりな優しい笑顔。