小悪魔は愛を食べる
* * *


和食を中心とした豪勢な手料理に舌鼓をうちながら壱弥が一寿の不在を訊ねると、一寿の出戻り娘である美央が、彼は九州の友人に茶会に呼ばれたため、二・三日家を空けるのだと教えてくれた。

折角芽衣ちゃんが来てくれたのにね。と少女のように笑った美央に、芽衣も愛想笑いを返して、心持ち真紘の陰に隠れるみたいに擦り寄った。

こんな風に真紘がいる場ではお役御免になる壱弥は、ひたすら面白く無さそうに料理を平らげていて、それに真紘が気付かれないよう笑っていたのは芽衣と真紘の秘密だ。

食後、真紘の勧めで採寸をすることになり、美央に案内されるまま部屋に通された芽衣は、懐かしい匂いにふっと口元を弛めた。

制服の上を脱いで薄着になる。美央が寒くない?と訊ねた。芽衣は首を横に振って、大丈夫と云った。

そんなやりとりをしながら、布製のメジャーを芽衣の体に巻きつけながら細かにメモをとっている美央を見下ろす。

真っ黒な艶髪が蛍光灯の光で天使を輪を作っていた。湿気で少しふわついたアホ毛がまた美央の無邪気さを表しているようで、芽衣は手を強く握る。

そうでもしなければ、触れてしまいそうで嫌だったのだ。

互いの息遣いだけが聞こえる部屋の中、耐え切れなくなった芽衣が口を開いた。

「最近、体調いいですか?」

美央は顔を上げて、それから芽衣のウエストにメジャーを巻きつけながら答えた。

「そうね。今は毎日が幸せだから、うん。元気。はい、次に肩幅ね。後ろ向いて」

芽衣が背中を向けると、美央は狭いのねと呟きながら、採寸を続けた。

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